遺産分割協議による相続手続き

法定相続人を確定する

遺言書がない場合は、法定相続人による遺産分割協議によって相続財産を分配していきます。

法定相続人を確定していくには被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要となり、相続人については生存確認のため現在の戸籍謄本が必要となります。

出生から死亡までの戸籍をたどる中で家族でさえ知らなかった思わぬ相続人が見つかったりすることもあります。戸籍謄本の取得は役所に出向くほか、郵送で発行申請することも可能です。

被相続人の戸籍をたどり、法定相続人が確定したら、生存確認のために相続人全員の戸籍謄本を取得します。

現住所の分からない相続人もいる場合は、住所移転の履歴である戸籍の附票を取得します。戸籍の附票も戸籍謄本と同じく、順に辿っていくこととなります。

戸籍をたどっていく中で法定相続人が先に亡くなっているケースもあると思います。その場合は法定相続人の代わりにその子供が遺産を受け継ぐ制度(代襲相続制度)が利用できます。

被相続人の子が亡くなっていた場合

法定相続人である子が先に亡くなっていた場合、代襲相続によりその人の子(つまり被相続人の孫にあたる)が相続人になることができます。

代襲相続とは、被相続人(亡くなった人)の子供や兄弟姉妹である法定相続人が、死亡・相続欠格・相続廃除などに該当する場合に、その法定相続人の子供が代わりに遺産を相続する制度のことです。

被相続人の兄弟が法定相続人になり、亡くなっている場合

被相続人の兄弟が法定相続人になり亡くなっている場合、その人の子(つまり被相続人の甥や姪にあたる)が代わって相続人となります。

被相続人の兄弟の死によって代襲相続した人からは、再代襲されません。もちろん、このルールは相続先順位の被相続人の子や直系尊属がいないときに限ります。

以上により法定相続人になれる優先順位をまとめると下記になります。

【優先度高】子→孫→直系尊属→兄弟姉妹→甥や姪【優先度低】※配偶者は常に法定相続人

相続人関係一覧図を作成する

戸籍(除)謄本等から法定相続人が確定できた時、相続人関係一覧図を作成します。

相続関係一覧図とは被相続人の相続人が誰か分かりやすく一覧にしたものです。

被相続人を中心とした家系図の中で相続に関係する人だけを抜き出したようなもの、というイメージをしていただくとわかりやすいかと思います。

相続関係一覧図が必要になる場面

相続関係一覧図は、相続手続きの場面で活躍します。具体的には、下記のような場合です。

  • 被相続人名義の不動産の名義変更をする場合
  • 被相続人名義の預貯金の解約や名義変更をする場合
  • 被相続人名義の証券口座の解約をする場合

相続関係一覧図を作成するメリットは、相続人の関係性を一目で確認できるので、相続手続きがとてもスムーズに進められることです。

相続関係説明図を提出すれば、戸籍謄本は、原則、返却可能となります。 戸籍謄本の一式を手続きごとに用意するのは、枚数もかさばり、取得費の負担も重くなりますが、相続関係説明図を作成しておけば、戸籍謄本は1セット揃えるだけで手続きを順に進めることができます。

法定相続情報証明制度の活用

法定相続情報証明制度とは、登記所(法務局)に戸除籍謄本等の束を提出し、併せて相続関係を一覧に表した図(相続情報一覧図)を提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付します。

その後の相続手続は、法定相続情報一覧図の写しを利用することで戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなり、手続きが同時に進められ時間短縮にもつながります。下記に法定相続情報証明制度のメリットをまとめます。

法定相続情報証明制度メリット

  • 戸籍(除)謄本等の厚い束を持ち歩く必要がなくなる。
  • 登記手続き、金融機関での手続きが同時進行できる。
  • 複雑な相続案件では法務局が相続人の漏れや誤りがないことを確定してくれるのでその後の手続きを安心して進めることができる。
  • 金融機関は手間暇が省け責任も免れるので歓待され待ち時間も短縮される。
  • 相続手続きに必要な最低限度の情報のみが記載されるので、プライバシー配慮にも役立つ。

相続財産の調査

遺産分割は、相続人が共同所有することになった相続財産を各相続人に分配する手続きになります。

相続財産に何があるのか、その評価はどのくらいか、負債はないのか等を調査してその範囲と評価額を明らかにしないと遺産分割協議を円滑に進めることができません。

相続人の一人が、その遺産が存在することを知っていたらこのような遺産分割協議には合意しなかったというような場合も考えられ、また遺産分割協議をやり直すようなことになりかねません。

預貯金の調査

調査資料として預貯金通帳、証書、出資証券(信金等)、ローン契約書等をもとに金融機関を特定して残高証明書を取得します。

残高証明書の請求は、相続人であれば単独で行うことができます。ほかの相続人の合意が必要なわけでもありません。

また委任状があれば代理人でも申請することが可能で、士業や遺言執行者、相続財産管理人(相続人が誰もいないときに家庭裁判所が選任する)も発行の請求が可能です。

残高証明書を取得するにあたり、必要な書類

  • 被相続人の死亡した記載のわかる戸籍(除)謄本
  • 申請人と被相続人との関係がわかる戸(除)謄本
  • 委任状(代理人の場合)
  • 代理人の印鑑証明書
  • 代理人の本人確認書類(免許証等)

残高証明書の通数

『死亡時』の証明書と『請求時』の証明書を各1通取得するとより確実です。死亡後、請求時までに引き出されている可能性もあるからです。

株式の調査

株式の配当通知書、取引明細書等をもとに証券会社を特定し、調査します。

証券会社へ提出する株式の相続手続きや残高証明書発行に必要な書類は上記預貯金調査と同一となります。

残高証明書を取得するにあたり、必要な書類

  • 被相続人の死亡した記載のわかる戸籍(除)謄本
  • 申請人と被相続人との関係がわかる戸(除)謄本
  • 委任状(代理人の場合)
  • 代理人の印鑑証明書
  • 代理人の本人確認書類(免許証等)

上場株式や投資信託等は、証券会社の口座で管理されていることがほとんどです。どの証券会社かわかったら、書類等に記載されている問い合わせ先に連絡をして、口座名義人が亡くなったことと、相続の手続き及び残高証明書の発行に必要な書類を送ってもらいましょう。

最近は手数料の安いネット証券を活用されている方も多いです。ネット証券は郵送されてくる書類が少ないので、スマホのアプリやメールもチェックしてみましょう。取引している証券会社が見つかるかもしれません。

書類が届いたら、同封の案内に従い戸籍謄本や遺産分割協議書等の必要書類を準備し、残高証明書の請求や相続手続きを行うという流れになります。

不動産の調査

不動産は権利証や固定資産税納税通知書・名寄帳の取得などによって調査します。

所在や地番が分かっていれば、その情報を頼りに登記全部事項証明書を取得して不動産所有の有無と状況を確認しましょう。

未登記・手元資料では確認できない不動産がある場合

不動産が未登記の場合は、固定資産納税通知書や売買契約書、建築確認申請書があれば被相続人所有不動産の証明になります。

また、固定資産税がかからない不動産(課税標準額30万円未満)、共同所有不動産(代表者にのみ固定資産税納税通知書が送付される)など権利証や固定資産納税通知書から確認できない不動産があるかもしれません。その場合は、名寄帳を取得することにより確認できます。

名寄帳(なよせちょう)とは、市区町村が作成している固定資産課税台帳(固定資産税の課税対象となる土地や家屋などの情報を登録した帳簿)を所有者別に一覧表でまとめたものです。

これを利用することにより相続人が所有する不動産を一度に把握することができます。不動産所在地を管轄する市町村ごとに作成される為、管轄外の所在地にある不動産についてはその管轄地の名寄帳を別途確認する必要があります。

不動産評価額の確認

相続をスムーズに進めるためには、被相続人の遺産(預貯金・有価証券・不動産など)がどれだけ存在するのか早期に把握することが重要です。

不動産の価値を把握する為に『固定資産評価証明書』を取得します。取得により不動産の公的な評価額を知ることができます。

土地については『公示価格』(国による全国の標準地の評価額)の70%が固定資産評価額の目安になります。固定資産評価額をその70%で割り戻せば、公示価格という公的評価に基づく土地の値段が判明します。しかし、現実の取引価格は同じ区域でも形状、日照、接道等により異なるので目安として考えましょう。

家屋については原則固定資産税評価額が唯一の公的評価になり、これを目安とします。

相続財産に貴金属がある場合

貴金属ももちろん相続財産になります。評価額が気になるところですが、下記方法で判別していきます。

  • 貴金属購入時価格で判別する。
  • 専門家に鑑定してもらい判別する。
  • 金の場合には相続開始時の金の小売価格にて判別する。

貴金属購入時の領収書、通帳記録に購入価格が残っていればそれをもとに評価(調達価格)しますが、ない場合は専門家に現在の価値を鑑定してもらいましょう。

財産目録の作成

遺言執行者と違い、法的には作成義務はありませんが遺産分割協議がスムーズに進める為に財産目録の作成をします。相続税申告の要否判断の為、正確に作成する必要があります。

具体的相続分による算定

共同相続人、相続財産の把握ができたらいよいよ相続人間の相続財産の算定をしていきます。相続財産の把握とともに、相続人間の事情を考慮し、遺産分割協議の合意を目指します。

相続人間の事情を考慮し、実質的公平を実現する為に相続財産を算定していくことを具体的相続分による算定といいます。

共同相続人の中に『特別受益』や『特別寄与』に該当する相続人がいる場合、遺産分割の際に考慮しなければ不公平となり、もちろん遺産分割協議も全員の合意を得ることも難しくなります。

特別受益とは

共同相続人の中に被相続人から生前贈与を受け、または遺贈等を受けた相続人がいる場合にこれを遺産分割時にすでに受け取ったものとして遺産分割の計算に入れなければ不公平となります。

民法では、相続財産に生前贈与を加えたものを相続財産とみなします。よって相続財産価格が決まっていれば、生前贈与として受け取ったものを控除した残額が相続財産となります。(民法903条)

加算すべき贈与の対象

少額の贈与まで加算していては煩雑となる為、何らかの資本として与えられた贈与を対象としています。(婚姻・養子縁組・学費・事業資金・生計の資本など)

特別受益の調査

共同相続人が特別受益の事実を認めれば遺産分割協議で証拠は必要ありませんが、認めない場合は証拠が必要となります。

現金であれば銀行口座や口座の取引履歴書、贈与契約書、不動産であれば登記事項全部証明書等です。過去の記憶、会話の内容など物的証拠のない場合は特別受益を認めさせることは難しくなります。

寄与分とは

寄与分とは共同相続人の中に被相続人の財産維持または増加に貢献した相続人がいた場合、遺産分割の際に貢献した相続人に本来の相続分以上に財産を取得させる制度です。(民法904条②)

寄与分を取得するには、相続人全員の協議、協議がまとまらなければ調停、調停が不成立だと家庭裁判所での審判となり『特別受益』と同様、認められるまで非常にハードルの高い制度となっています。

特別寄与とは

特別寄与とは無償で被相続人の療養看護等を行った親族が、その対価として金銭の請求をできる制度です。(民法1050条)

対象は労務提供型の特別寄与のみ、財産給付型の寄与は対象外となります。

寄与分と違い、特別寄与者は相続人である必要はなく、親族(6親等内の血族・3親等内の姻族)であれば請求できます。

相続方法の選択

相続人各自の相続財産も決まり相続財産を分配をしていきますが、残された遺産がプラスばかりとは限りません。

相続するかしないかは、相続人の判断に任されており、だれも面倒を抱えるような相続はしたくないものです。

相続人は被相続人の財産内容に応じて自分の次の3パターンにて、相続方法を選択することができます。

  • 単純承認
  • 限定承認
  • 相続放棄

単純承認とは

相続人が被相続人の権利義務全てを無限に継承することをいいます。(民法920条)

自分が相続人になったことを知り、3ヶ月間を経過すると単純承認したものとみなされます。被相続人の財産がプラス財産をマイナス財産が上回っていると、被相続人のマイナス財産を代わりに弁済することになります。

単純承認の手続き

なにも手続きをする必要はありません。

上記の通り自分が相続人になったことを知り、3ヶ月以内に限定承認か相続放棄の手続きをしなければ自動的に単純承認を選んだことになります。

その他、積極的に意思表示をする以外に『相続財産の処分』『債権の取り立て』『債務の弁済』『遺産分割協議』を行うと単純承認したものとみなされます。

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